籠絡するのは簡単だった。
好奇心を通り越した、若い獣欲の旺盛なこの年頃だ。
少し気のあるそぶりを見せ、少し肌に触れる。
それだけで、私の毒は「キズナの想い人」の髄まで侵した。
密会の場は、文化部棟の教材室。
山の斜面に寄り添うように建てられたこの建物は、入り口が普通の建物で言えば四階部分にあたり、入口階より下に三層、上に一層のフロアがある全五層。
その中の最下層、日の光も満足に届かぬ薄暗い、教材室とは名ばかりの倉庫。
そこが、幾度となく男達との逢瀬を交わした秘密の花園。
手紙と甘い言葉で誘い、可憐なふりをして花に寄せ付け、毒針で髄を侵す。
それが私の手段。
彼氏を寝取ってやった上級生に言われた事がある。
魔 女 め
あはは、
だからどうした。
魔女の毒にすら勝てぬ、苦い汁しかひり出せない徒花が。
毒はたった三日で回った。
一日目は拒絶された。
頬を染めて目を逸らしたり、思わせ振りな言葉を紡ぐ。
たわいの無い会話。
しかし、彼の目は大きく開けたブラウスの胸元と、時おり意味ありげにたくし上げたスカートから伸びる脚に釘付けだった。
二日目は、首に腕をからめてしなだれかかり、喉元を唇で愛撫し、キツく首筋に口付ける。
紅く跡が残るほどに吸い、魔女の烙印を押す。
彼は両の手を私の腰と肩に伸ばしてきたが、するりと逃げる。
「続きは明日」
耳元に熱っぽく囁く。
彼はただ愚者の様に、口を半開きにしてうなづくだけだった。
三日目。
彼の方が先にその場所にいた。
はち切れんばかりの欲望を抑えきれずに。
そのギラギラした視線を浴びせられるだけで、私の中の暗い欲望が歓喜の声を上げる。
モチーフ台に足を組んで腰掛け、私は「いいよ」と囁いただけ。
彼は床に這いつくばり、ご丁寧に私の靴と靴下を脱がし、私の足に口づけ、そして私の全身を犯した。
押し倒された時に台の上に積み上げられたモチーフが崩れ落ちる。
ガラスの瓶は床に転がってヒビが入り、熟して腐りかけた果実はいびつに潰れ、甘くて臭い汁を滲み出させた。
宴はいつまでも続いた。
すり切れるまで、枯れ果てるまで。
気が狂うほどに若い獣欲のほとばしる様を、さぞかしドアの隙間から見ていた観客も喜んでくれただろう…
行為の最中、何度も目があったはずだ
両手に握ったカッターナイフで切り裂く。
狂った様に
何百回
何千回
白く濁った目玉はとうに引きちぎり、踏みつぶし
染みとなって地面に同化した
「そいつ」は、最初の数十分は、切り裂くたびにずっと
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
と叫び、命乞いをしていたが、
ものの一時間と断たないうちに体中の穴という穴から血を吹き出し、汚物まみれになって気絶した
これで二人。
残るはただ一人
最愛にして
最も忌々しいあなた
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■【違う星の下で】■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
私は呪われている。
…この島の20日間の呪いの事じゃない。
私は生まれつき呪われているのだ。
頭に響く声
言う事をきかない手足
意識は明確なのに、体は頭の中の「声」に支配される。
戦いを始める
もし、いつの日か
私はホルスやリョウコさんに刃を向ける日がくるのだろうか…